ANIRON

本にまつわることを、少しずつ、好きなように書きます。

2020.11.17 シャーリィ・ジャクスンを読む

ホラーを読みたくない/書きたくない病をふたたび発症してしまい、どうしたものかと思ってシャーリィ・ジャクスン『なんでもない一日』の続きを読んでいた。

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まだ中盤あたりなのだが、とにかく面白い。こんなに面白い小説を読むのはいつぶりだろうという感がある。

怪異現象は一切起こらず、人間の悪意と、街の不穏な空気感だけで物語が展開していく。

ホラーにとって怪異現象というのは副次的なものだということは以前にも書いた。

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怪異現象のような要素だけに依存してホラー小説が成り立っているわけではないということは、この本を通して読んで強く感じたことだ。

むしろそうした現象はプラスアルファの加点要素であって、本質的に重要であるのは、あくまでも人間関係をいかに描くかということに立脚している。

その深い掘り下げがなければ、表面的な怪異現象のおそろしさも、宙に浮いてしまうのだ。

シャーリィ・ジャクスンを読んでいると、改めてその実感を味わわずにはいられない。

また物語前提にただよう不穏な空気感は、さながら『ジョジョの奇妙な冒険』の4部のような味わいがある。

魔物は怪異の中に潜むのではなく、あくまでも一見平穏に見える街のとある住民の心の中にいる。それがまたアツい。

今のところ読んだ中では、冒頭の「スミス夫人の蜜月」と「なんでもない日にピーナッツを持って」「悪の可能性」が好きだ。

中でも「スミス夫人の蜜月」は、ハウスワイフがヒロインということもあって、「私もこういう物語を書きたい」と思わせる一作だった。

 

実のところ、プロ作家に「可能性を感じる」と評価していただいた「望月すみれに近寄ってはいけない」は、女子高校生をヒロインにしたこともあって、妙に照れくさいと感じる部分もあった。

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私が苦手とする現代が舞台の小説でもあったし、女子高校生という身分はこれまでに通ってきた道とはいえ、その現実は決して明るいものではなかったから、その有様を描くことに気恥ずかしさがあったのだった。

この小説ではその暗い青春が良い方向に作用したのかもしれない。

ホラーを書くのには事欠かない材料を持ち合わせているという点でも、女子高校生をヒロインにするというのは理に叶っているだろうし、ターゲットとする読者層の年齢を考えてもそれが妥当だというのもわかる。

 

だが反省点はいろいろとある。

シャーリィ・ジャクスンの小説は、子どもを扱った作品でも終始クールで、少しも媚びたところがないのが好ましい。日本文学だとなかなかこういう作風で、徹底的に突き放した姿勢で子どもを描くことは難しいのではないかと思う。

このさじ加減がなかなか難しくて、あくまでも読者のターゲットを大人に設定しているからこそ書けるのだろうが、私は少し幼い書き方で書いてしまう。

あくまでも物語の不穏な空気感を重んじるという徹底した意識がなせる技なのだろうと思う。

 

また詳細は「私物語化計画」の内容に触れることになるので、そちらを参照していただくことにして、シャーリィ・ジャクスンの小説は因果関係を描くフランケンシュタイン型というよりは、人間の心に巣食う悪を描くという点において、ジキルとハイド型、あるいは悪の権化としてのドラキュラ型に分類される小説が多い。

サイコパスのような人間を扱うことは、私の手に余るかもしれないので、実際問題創作にどれほど活かせるかというと疑問が残る。

小説の型として魅力が尽きない上に、物語を展開させていく原動力を持つのはやはりフランケンシュタイン型だろう。

そう考えると、やはりキャラクターについて、どれだけの動機を描けるかということが重要になってくる。

動機がないところに恐怖があるという見方も一方ではできるのだが、それだけではやはり小説としてのコアは弱くなってしまう。

強烈な動機は、確実に物語を強く推し進めていくのだ。

 

……とここまで書いてきて、改めて自分の練っている構想をふたたび見直そうという思いに至った。

まだまだ時間はかかるだろうが、少しずつでも前進できるように励みたい。

2020.11.09 高柳誠と私の詩作について

今年も冬季うつがはじまり、ずいぶんと読書ペースが落ちてきた。

ホラーを読みたいという気持ちも減退してしまって、なかなか積読本を崩せずにいる。

そもそも私自身はホラーを書くべきなのかという問いにぶつかり、ホラーを書くことに対して内心あまり快く思っていないということが改めて明らかになった。

ひとまず公募に出した二作の結果を待って、ホラーを書くかどうか改めて決めても良いだろうという結論に達し、しばらくホラーを離れて自由に本を読もうと決めた。

 

そういうわけでかねてより積んで気になっていた高柳誠『鉱石譜』を手に取った。

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これは今はなき、ささま書店で購入した署名本で、高柳誠の名は知っていて購入した。

今にして思えば惜しい書店をなくしてしまったものだと思う。

荻窪に住んでいた頃にしょっちゅう通って本を買った。

当時関わっていた文芸サークルの後輩と行ったり、主人とも恋人時代に何度も足を運んだ。

主人は私が欲しがっていた岩波文庫杜甫全集を、私のいないときを狙ってかっさらっていった。

その後も主人の実家に置かれているらしいが、私はそれから一度も目にしていない。

主人は大学院で漢文を学んでいた人で、未だに和本を使って論語の読書会をして漢文に親しんでいるから、そういう人に買ってもらえて、杜甫全集も浮かばれるだろうと思う。

私も一時期は漢詩に親しんだものだが、ここのところはすっかりご無沙汰になってしまっている。またいずれ腰を据えて漢詩を読みたい。

 

それはともかく、高柳誠『鉱石譜』の話に戻そう。

私は現代詩にまだまだ疎くて、時々現代詩手帖を買ったり、金井美恵子詩集を読んだり、夏頃には朝吹亮二の詩集を読んだりした。

現代詩の意味の世界から離れた、言語芸術としての美しさは、近代詩を愛好していた頃はよくわからなかったのだが、逆にそれが新鮮で面白いと感じるようになった。

そうして少しずつ現代詩の読み方が分かってきたかなというところで、まだまだ実作に活かすには勉強が必要だ。

高柳誠の詩にフォーカスすると、言葉の持つ男性性を強く感じた。

鉱石というモノ自体が持つ硬質さと、高柳誠が紡ぐ言葉の硬質さがマッチしていて、これは女流詩人が同じテーマを扱ってもこういう作風にはならないだろうと思う。

 

私自身、作品にたびたび鉱石を登場させてきたが、どうしても有機的で抒情的な作風になってしまう。

先日は散文詩死出の旅」に「女性的」との感想をいただいた。

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私自身はやや硬めだと思っているのだが、人からの評価を受けて、たしかに吉田一穂や高柳誠のような硬質さとはほど遠いのかもしれないと思い直した。

硬いから良いとか、柔らかいから優れているとか、そういうものではないにせよ、プロの作品を読んで自分の立ち位置をたしかめるというのは、あらゆるジャンルの創作においてとても大事なことだと思う。

創作においては美しい文体、美しい文章を追い求めたい身として、少し考えさせられた。

 

また改めて詩を書きたいという思いを強くした。

私の詩は詩ではないという思いは未だに根強いが、こうして人に散文詩と認めてもらえたことが今は心強い。

カクヨムで連載していた詩も今はストップしてしまっているので、ふたたび書いていけるように準備を整えたい。

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『挽歌-elegy-』『真珠姫の恋』と、ある程度形が見えてきた散文詩から少し距離を置きたくて、まだまだ模索は続きそうだ。

ちなみに真珠姫の恋は、同人誌にする計画があったのだが、どうしても都合がつかなくて泣く泣くWEBに全文公開することになった。

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詩の感想でも、小説の感想でも、あるいはおすすめの本でも気軽にマシュマロでメッセージを送っていただけるとありがたいです。

もちろんこちらのコメント欄でもかまいませんので、よろしくお願いいたします。

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2020.11.03 横溝正史とヨムヨムと

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10月は15冊の本を読んだらしい。

Twitterを再開して、本を読めているという感覚をなかなか得られなかったが、ひとまず二桁台には乗せられたので良かった。

Twitterをやっていると、私はどうしても読書に時間を充てられなくなってしまいがちなので、よくよく自重しなくてはと思っていたのだが、思ったよりも本と触れ合えていてほっとした。

しばらくこちらのブログの更新も間が空き、この間にもプロアマ問わずさまざまなものを読んだが、プロのものに関しては上の記事にまとめた通りだ。

 

プロ作品では今は横溝正史『蔵の中・鬼火』を再読している。

優れた文体に夢中になれるストーリーと、無尽の魅力があふれる横溝作品のひとつだ。

これはKADOKAWAフェアのときに購入したホラー小説のひとつで、かねてから再読したいと思っていたのだった。

蔵の中・鬼火 (角川文庫)

蔵の中・鬼火 (角川文庫)

 

「鬼火」「蔵の中」「かいやぐら物語」と読んできたが、いずれもストーリーテラーとしての横溝の才能がいかんなく発揮されている。

私の好みは「蔵の中」「かいやぐら物語」だが、これらはいずれも幻想性や耽美性が高く、見事な文体も相まって、横溝は正当な谷崎潤一郎の後継者だという思いを新たにする。

中でも「かいやぐら物語」の短編としての完成度には目を見張るものがあったので、これを参考に物語を書いてみたいという気持ちにもなった。

とはいえいずれもテンションが高いし、横溝は展開や要素を盛りに盛っていくので、おなかいっぱい……というのが正直なところだ。

 

ここのところ冬季うつで参っていることもあって、粘度の高い文章よりも、もう少しフラットな文章を読みたいという気持ちもあり、この作品を読み終えたら、また違う作家のホラー小説に手を伸ばしたい。

そういうわけで昨日は、かねてより主人から勧められていた『六番目の小夜子』と、「私」物語化計画でも次回取り上げられるという、『仄暗い水の底から』を注文した。

仄暗い水の底から (角川ホラー文庫)

仄暗い水の底から (角川ホラー文庫)

 
六番目の小夜子(新潮文庫)

六番目の小夜子(新潮文庫)

 

 ホラー作品はまだまだ積読本が多いので、このタイミングで新たに積むことを少々悩んだが、今は投資だと思って買い、筋トレだと思って読むしかない。

合間合間に趣味の本や皆川博子作品も挟みつつ、しっかり読んでいきたい。

 

マチュア作品についてはいろいろと思うことも多かったので、敢えて多くのことは書かないでおくが、今更新を楽しみにしている作品があるので紹介しておきたい。

凪野基さんの「ノエルの花束」だ。

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まだはじまって間もないものの、ハウスキーパーの物語ということで、そうしたものがちょうど読みたかった身としてはかなりタイムリーだった。

今後とも続きを拝読できるのが楽しみで、応援コメントも寄せさせていただいた。

Twitterのノベルバーというイベントに参加なさっているとのことなので、11月中に続きが読めるのだろう。

カクヨムにいるとさまざまなことがあるけども、ヨムヨムは今後ともつづけたいと思っている。

10月に読んだ本

10月の読書メーター
読んだ本の数:15
読んだページ数:3413
ナイス数:62

少女革命ウテナ (1) (小学館文庫)少女革命ウテナ (1) (小学館文庫)感想
百合漫画を読みたくて、まずは王道からと思い手に取ったのだけれど、面白くて思わず一気読み。生徒会の面々も、ウテナも美しくて眼福でした。百合というよりも、今は少女漫画然としているけれど、それはそれで大好物なので美味しくいただきます。桐生先輩が耽美で好みです。アンシーとの関係はこれから深まっていくのかな……? その過程も楽しみにしています。
読了日:10月05日 著者:さいとう ちほ


少女革命ウテナ (2) (小学館文庫)少女革命ウテナ (2) (小学館文庫)感想
やはりストーリーの基軸は少女漫画。ひとつの恋によって世界が変わってしまうセカイ系のような雰囲気の二巻でした。アンシーが人としての心を取り戻す瞬間に胸がアツくなりました。未見だけど、「まどマギ」とかはもろにこの影響を受けていそう。どろどろとした人間関係の中でも、ウテナの清廉な意思の強さを感じるので、ぐいぐい読み進めることができました。
読了日:10月05日 著者:さいとう ちほ


少女革命ウテナ (3) (小学館文庫)少女革命ウテナ (3) (小学館文庫)感想
本編のみ読了。余韻にひたりたくて番外編はまだ読んでいない。なるほど、これは百合だ。できればもう少しじっくり「お話」を楽しみたかったけれど、この作品の持つ圧倒的なカリスマ性は、あのエンディングだからこそ持ち得たのかもしれない。こうして読んでみると、アニメ「ギルティクラウン」も完全にウテナの影響を受けているし、その他にも影響を与えた作品はたくさんあるのだろうと感じた。また影響関係は定かでないけれど「ハーモニー」を彷彿とさせる終幕だった。気まぐれに手に取ったけれど、この機会に読めて良かったと心から思う。
読了日:10月06日 著者:さいとう ちほ


るんびにの子供 (角川ホラー文庫)るんびにの子供 (角川ホラー文庫)感想
ほぼ初めて読むホラー小説だったが、どれも粒ぞろいで、秋の沈鬱な長雨のさなかに読むのにぴったりだった。中でも「柘榴の家」の最後の台詞がじわじわとくる。私はこの作品はハッピーエンドだったと思っているのだけれど、おそらく映像化したら最も恐ろしいのはこの作品なのではないだろうか。「キリコ」の叙述トリックの妙や、幻想文学のような「とびだす絵本」「獺祭」にも魅せられた。全体的に復讐譚のような色合いが濃いものの、それだけに「柘榴の家」のダークなハッピーエンドの恐ろしさが光る。
読了日:10月09日 著者:宇佐美まこと


職業としての小説家 (Switch library)職業としての小説家 (Switch library)感想
もう何度目かわからないぐらいの再読。村上春樹は誠実な人だとこの本を読むたびに思う。個人的な営みとしての「小説を書くこと」をいかに大事にして育てていくべきか、読むたびに姿勢を正される想いがする。改めて自分の今を振り返るきっかけを与えてもらったと感じた。あくまでも自分自身の「小説を書きたい」という気持ちを大切にしながら、今後とも創作活動を続けていきたい。
読了日:10月11日 著者:村上春樹


いとおしむ暮らし (ナチュリラ別冊)いとおしむ暮らし (ナチュリラ別冊)感想
気持ちを整えたい夜に、もう何度目になるかわからない再読。人をサポートすることに目を向けがちだけれど、まずは自分の足元をしっかり見つめ直さないといけないなぁと反省。少しでも穏やかに、日々を過ごしていけるように、これからも折に触れて再読したいです。内田さんはこれからも私のかけがえのない目標であり、道しるべです。
読了日:10月14日 著者:内田 彩仍


皆川博子作品精華 伝奇―時代小説編皆川博子作品精華 伝奇―時代小説編感想
最後の「海と十字架」のみを除いて読んだ。長崎のミッションスクール出身で、どうしても作家の書くキリシタンものに抵抗があるという信条上の理由なのでやむなく。短編はいずれも名品揃いで、まさに物語の愉悦にひたるという帯どおりに物語の面白さを堪能できた。また伝奇というジャンルの魅力を改めて感じられた作品集だった。皆川博子の卓越した芸の幅の広さと奥深さを味わうことができ、心から満足できた。
読了日:10月18日 著者:皆川 博子


もっと知りたい双極性障害 ココロの健康シリーズもっと知りたい双極性障害 ココロの健康シリーズ感想
昨夜から軽躁状態になっているのではないかと不安に駆られて手に取った。医師からは前に躁状態ではないとの診断を受けているが、うつに罹って二年ほど、一向に調子が良くならないので不安もある。明日電話受診をする予定なので、念のためもう一度相談してみるつもりだ。双極性障害でないことを願うしかない。
読了日:10月18日 著者: 


30代にしておきたい17のこと (だいわ文庫)30代にしておきたい17のこと (だいわ文庫)感想
12月で30歳になるので、少し焦りを感じて再読。自分がやりたいことを明確にしないと、その分積み上っていかないということは直に感じていて、詩歌の道に未練はあるけれど、今は小説を書くことに集中しようと思っている。創作をする中で、自作の詩歌が小説の礎を作ってきたことを考えると、趣味としてつづけるのはいいのかもしれないけれども。無駄に焦ることはないんだよな、とこの本を読んで改めて感じられて良かった。
読了日:10月19日 著者:本田 健


「首尾一貫感覚」で心を強くする(小学館新書)「首尾一貫感覚」で心を強くする(小学館新書)感想
とあるネット記事から、これはきっと役に立つと思って購入し、出会った本。ふわっとした内容の本だなと思いながら読み進めたのだけれど、終盤には具体的なメソッドが提示されていて良かった。私は楽観性が弱いのだけれど、読んでいてうつによって有意味性も弱まってきているなと感じた。ふたたび強化するために、一行日記や自分物語整理マトリックスなどを活用してみたい。
読了日:10月22日 著者:舟木彩乃


Eimi's anARTomy 102 (TH ART SERIES)Eimi's anARTomy 102 (TH ART SERIES)感想
Epicure Gournetに衝撃を受けてから、Twitterをフォローさせていただいていて、流れてくる作品の数々に魅せられてこうして作品集を手に取った。現代的に解釈された名画の数々と、松井冬子の九相図を彷彿とさせる解剖学的なコラージュは、私の好みを直球で貫いてくる。今後とも目が離せないアーティストのひとりだ。
読了日:10月23日 著者:スズキ エイミ


ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義 (早川書房)ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義 (早川書房)感想
主人の勧めで読んだ。儒教を奉じる彼の心のありようの一端がこの一冊でわかった。ありのままの自分を披瀝するのではなく、礼というワンクッションを挟んで人と接する。それこそが自己鍛錬の道であり、また揺らいでしまう心を規定し、より高めてくれるものなのだということ。あるがままの自分で生きるということを説く風潮が多い昨今、鮮やかな反撃を打ち込む一冊だと感じた。抽象的で実践しづらい点もあったが、主人が和本で孟子を読むきっかけを作った孟子のくだりはたしかに興味深かった。
読了日:10月25日 著者:マイケル ピュエット&クリスティーン グロス=ロー


魑魅の栖魑魅の栖感想
不穏な雰囲気に包まれながらも安堵を覚えるのはなぜだろう。さながらダークアンビエントを聴いているかのように、不安なノイズに押し包まれる安心感を感じる。胎児のような虫のようなBabiesたちの鼓動、海を彷徨う人魂の行方、浄土なき地獄へ落ちてゆくのかと思しき観音。さまざまな呼吸を感じる一冊だった。
読了日:10月27日 著者:高橋 美貴


LilithLilith感想
時代を超えて塚本邦雄とふたたび出会ったような衝撃を受けた。この歌人はおそらくキリスト者なのだろうと思う。そうでもなければ、単に虚飾だけでは語れないキリスト教のモチーフの数々のもつ奥行きは説明できない。年齢が近いこともあり、また短歌を作りはじめた年も私自身と重なるため、大いに刺激を受けた。私も趣味の領域で短歌を作りつづけたい。そしてまたいずれ投稿したいと強く願う。
読了日:10月27日 著者:川野芽生


愛と髑髏と (角川文庫)愛と髑髏と (角川文庫)感想
コロナ禍で雑誌の貸出をやめてしまった美容院にて読了。犬を痛めつける描写はいかんせんつらいものがあったけれども、少女や女性のもつ毒性がいかんなく伝わってくる短編集だった。皆川博子の短編小説の中だと、やはり『妖恋』『ゆめこ縮緬』『朱鱗の家』が突出していると感じるけども、その萌芽が感じられる作品だった。小説の型としてはやや型破りな印象も受けた。私の皆川作品の好みから云えば、少し順位は落ちるかな。もう少し落ちるところできちんと落ちて、まとまりのある作品の方が好み。
読了日:10月28日 著者:皆川 博子

読書メーター

2020.10.27 ヴァニラ画廊で購入した二冊の画集について

ヴァニラ画廊に注文していた二冊の画集が届いた。

この詳細については以前メインブログに書いたので、そちらを参照していただきたい。

evie-11.hatenablog.com

ひとまずコロナ禍で苦境に立たされているであろう画廊を応援したいという想いがあって、かねてより欲しかったものと、個展に伺いたかったのだけれど、都心まで足を運ぶ気力がないのでお迎えした画集をこのたび手にしたのだった。

いずれもサイン入りで、なかなか美術館や画廊に通えない中でも、こうして作品を手にできることが今はうれしい。

 

ちなみにふたつともこちらで購入することができる。

store.shopping.yahoo.co.jp

 

 

高橋美貴「魑魅の栖」

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bookmeter.com

不穏な雰囲気に包まれながらも安堵を覚えるのはなぜだろう。さながらダークアンビエントを聴いているかのように、不安なノイズに押し包まれる安心感を感じる。胎児のような虫のようなBabiesたちの鼓動、海を彷徨う人魂の行方、浄土なき地獄へ落ちてゆくのかと思しき観音。さまざまな呼吸を感じる一冊だった。

Twitterを介して個展を知り、足を運びたいと思ったのだが、まだまだ体調に不安があるさなかで都心に行く気になれず、こうして画集を手元に迎えることにした。

最近はホラー小説に舵を切ったということもあって、こうしたビジュアル的なホラーが手元にあると、ホラーを書くというモチベーションも高まる気がするし、やはり勇気づけられる。

ビジュアル資料は作品の方向性を決めるのにも役立ちそうだし、創作のインスピレーションや雰囲気作りの一助となればと願っている。

またいずれはルシール・アザリロヴィック監督作品の「エヴォリューション」も手元に迎えたいと思いつつ、未だに果たせていない。

エヴォリューション

エヴォリューション

  • メディア: Prime Video
 

 映画自体は2015年の公開当時に観に行って、パンフレットも購入した。

またそろそろ見返してもいいかもしれない。

 

Eimi's anARTomy 102 (TH ART SERIES)

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bookmeter.com

Epicure Gournetに衝撃を受けてから、Twitterをフォローさせていただいていて、流れてくる作品の数々に魅せられてこうして作品集を手に取った。現代的に解釈された名画の数々と、松井冬子の九相図を彷彿とさせる解剖学的なコラージュは、私の好みを直球で貫いてくる。今後とも目が離せないアーティストのひとりだ。
 

スズキエイミさんの作品はたびたび自分の作品(主に短歌)のインスピレーションを得るために活用させていただいてきた。

特にEpicure Gournetからは強いインパクトを受けて、オマージュ短歌を二編作った。

kakuyomu.jp

甘美なる絵画の貴人打ち笑みて世を満たす海の人魚招き

 

大雨たいう降る地の果てまでも覆ひたる妹の衣の桃色青色 

 ここのところ短歌を詠めていないが、また機会があればゆっくりと詠みたい。

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ちなみにこの歌集『螢火抄』は詩歌を愛好するTwitterのフォロワーさんからも評価をいただいて、大変光栄なことと受け止めている。

またいずれ短歌の公募に応募したいという気持ちもあるが、それも追々考えることであって、まずは小説をしっかり書いて仕上げていくことを第一の目標に掲げたい。

2020.10.26 思想を学ぶ

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主人に勧められて読んでいた『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』を読み終えた。

儒教というものは徹底した自己の修養を説くということで、ずいぶんとハードルが高いなと感じた一方で、主人の人との付き合い方を見ていると、まさに儒教的だなと感じる。

礼をもって接するということは、そうたやすいことではないけれど、主人はまず人の悪口を云わないし、表立って誰かを非難することもない。

私と接していても、決して近すぎるということはなく、あからさまに素を出すこともなく、節度を保とうとする姿勢を感じる。

彼の家庭環境がそのような様子だったということで、根っからの儒教的人間なのだと思う。

その主人はこの本の孟子の箇所に惹かれて、和本で『孟子』を読んだらしい。

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さすがに最高学府の大学院に入った人は違うなと思う。

休日は和本を用いて、仲間と論語読書会をしていて、社会人になっても漢文に親しもうとする姿勢には素直に尊敬の念を抱いている。

私は大学で記紀神話を専攻していたにも関わらず、ついぞ白文は読めずじまいだった。

ゼミでも和習漢文を長らく読んできたので、中国の正当な漢文とはまた訳が違うのかもしれない。

 

私自身はこの本を読んでいて、自分にとってもっとも有益だなと感じたのは、やはり孟子のくだりだった。

能動的であるとは、最適な状態をつくり出し、どんなさまざまな状況が生じても反応することだ。変化が育つような土壌をつくることだ。自分が何者であるか考えて、それに合わせて目標を決めるのではなく、自分が農夫だと考えてみよう。すると、きみの目標は、きみのさまざまな興味や側面が有機的に育つような土壌をつくることになる。

p108

 

これは、「わたしはなんだろうとなりたいものになれる」と考えるのではなく、「自分がなにになれるかは、まだ自分でもわからない」という気持ちでいろいろためしてみるやり方だ。どの可能性が自分をどこへ連れていってくれるかはっきりしない。それはまだ知りようがないからだ。けれども、自分自身について、そして自分がどんなことにわくわくするかについて発見できることは抽象的ななにかではない。実践の経験から得たとても具体的な知識だ。時間とともに想像もしなかった道がひらけ、それまで気づくことさえなかった選択肢が姿をあらわす。長い年月をかけて、きみは文字どおり別の人間になる。

p109

これは創作を志す人間にとってまたとない希望の言葉なのではないだろうか。

 

私は常にあらゆる可能性をさぐりながら創作を続けてきた。

得意とする異世界ファンタジーに限らず、時代小説、SF、詩歌と、さまざまなジャンルに挑戦してきた。

この本のこのくだりを読んでいて、その姿勢を肯定してもらった気持ちになった。

 

実際、これまでそれなりの作品を書いてきて、自分が向いているとは思わなかったホラーというジャンルをプロ作家に勧めていただいた。

未だに戸惑う気持ちもあるけれど、「望月すみれに近寄ってはいけない」を書いて、ようやく気持ちが固まったという感がある。

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おかげさまで現時点で複数のコメントや感想をいただくことができ、主人からも褒めてもらえたことが今はうれしい。

そのことについてはまた別途創作ブログに書くとして、今は思想を学ぶことが自分の心を整える下支えになるのだということを改めて感じることができた。

 

先日、たまたまテレビでNHKの「宗教・こころの時代 禅の知恵に学ぶ」が放映されているのを見かけた。

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実はテキストは以前買っていて、たびたび読み返していたのだが、この番組を観て「現成受用」なる言葉を知った。

ありのままの現実を受け入れて、それについて良いとか悪いとかの判断は下さずに、自分にとっての最善を尽くすということを山川宗玄さんは説いておられた。

良い機会でもあるし、これを機に再読してみるのもいいのかもしれない。

とにかく今は思想的なよりどころが欲しい。 

2020.10.24 引き続きヨムヨム

商業小説も読まねばと思いつつ、コンテストに参加中なのでヨムヨムがはかどります。

今回ピックアップするのは以下の三作。

いずれもコンテスト参加作品ではありませんが、特に惹かれたのでレビューを書かせていただきました。

 

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これぞ純文学×和ホラー
★★★ Excellent!!! 雨伽詩音
まるで山崎俊夫の小説のように翳りを帯びた少年たちの愛憎が描かれていて、一気に引きこまれました。
伝奇ホラーとしても、純文学としても秀逸で、整った文章と陰鬱で淫靡な雰囲気がまさにツボです。叶うことなら連作短編として、この時代設定の小説を他にも拝読したくなります。
カクヨムの書き手の裾野の広さを感じられる、魅力に満ちた一作でした。 

 

Twitterのフォロワーさんがきっかけで知ることとなった同人作家さんの作品です。

これぞ純文学と云うべき文体のたしかさと、描かれる怪異譚の魅力に惹かれました。

おそらく明治あたりの時代を描いたものだと思いますが、この頃を舞台に外国人を描くと、「異人」という言葉がしっくりきますね。

「異人」にまつわる民俗学的な伝承は数多いですが、それらを彷彿とさせる作品でした。

怪異の民俗学〈7〉異人・生贄
 

 遥か昔に読んだので、内容はおぼろげですが、こちらの本も大変面白かった記憶があります。

またいずれ民俗学もしっかり勉強したいです。

 

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魂の行きつく先を求めて
★★★ Excellent!!! 雨伽詩音
著者にとって宗教と文学というものが、いかに融合を果たすべきかというのがひとつのテーマなのだろうなと感じましたが、それを差し置いても、じんわりと心が温かくなるような作品でした。
祖母のいじらしい生き方が愛おしくなりますし、主人公の真摯ながらもちょっと照れたような語り口も効いていて大変良かったです。
魂の行きつく先は私にはわかりませんが、それでも祈りのこもった小説だと感じました。
きっと主人公にはおぼろげながらもその在処がわかったのだろうと思います。

物語というよりは思想性が前面に出た作品だと感じました。

それでも祖母のバックグラウンドを知るにつけ、彼女への愛おしさがじんわりとこみ上げてくるような小説でした。

宗教と文学はいかに融合を果たすべきかというテーマに関しては、カラマーゾフの兄弟に勝るものはないと思いますが、それを日本を舞台に練り上げていこうとする試行錯誤の痕跡が見られて、ますます応援したくなりました。 

 

 

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端正なリズムで謳い上げられる叙事詩
★★★ Excellent!!!雨伽詩音
近代詩を思わせるような歌いぶりと、壮大なテーマが組み合わさって、さながらJ・A・シーザーの歌詞のような趣があります。
遥か彼方から人類を俯瞰するような詩の数々は、知に満ち勇に満ち、強く熱く訴えかけてくるようです。 

 若々しい情熱に燃えた詩だと感じました。

ただ、その情熱に身を任せながらも、詩のリズムには徹底した計算の痕跡を感じます。

そのふたつの要素がうまく溶け合って、さながら近代詩を思わせる詩風が生まれたのだろうなと思います。

ちなみにJ・A・シーザー少女革命ウテナのアルバムを一枚聴いたきりなので、そこまでくわしくないのですが、もっと聴いてみたくなりました。