消耗しきった一日だった。まるで生きていくことに価値を感じられず、昨日犯した誤送金という失態が重くのしかかって頭から離れない。
昨日主人が「誤送金は時々あるみたいだよ」とYahoo知恵袋を見ながら云うので、「『死んでください』って回答に書いてない?」と冗談混じりに返したのだけれど、その「死んでください」という自責感が否応なく高まってしまった。
そうは云っても相談窓口に相談をする元気もなく、病院に電話をする気力もなく、気づけば時間がどんどん過ぎてゆく。
一時間、二時間と経っても一向に空腹にならず、消耗しきって椅子に身を沈めて短歌を詠んだ。
詠んでみると案外詠めるもので、ここ二ヶ月ほどのスランプはなんだったのだろうと思う。
やはり吉田隼人『忘却のための試論』を読んで得るところが多かったのだ。
まさかこのタイミングで自分の志向する方向性にもっとも近しい歌集と出会うとは思わず、得難い出会いに深い感動を覚えている。
葉桜は花の否定のただなかに樹(たち)つつdead or asleep
すいみんと死とのあはひに羽化の蝉。翅の緑に透いてあるはも
忘却はやさしきほどに酷なれば書架に『マルテの手記』が足らざり
気の弱いせいねんのままで死ぬだらうポッケに繊維ごちやごちやさせて
霊のわれ屍肉のわれと落ち合ヘル中合百貨店五階書籍部
特急は死よりも疾く過ぎ柚木ぬ梅雨の晴れ間のかげの区域を
ひたすらに雪融かす肩 母よ 僕など産んでかなしくはないか
など、直接的な表現で死を謳う短歌の数々は深いシンパシーを覚える。
ここのところ作歌がままならない日々が続いていたのだけれど、これらの短歌の数々に触れるうちに、ふたたび詠みたいという思いが募ってきた。
作歌の道に迷った時、ふたたび手に取りたい記念碑的な歌集となった。
やはり詩歌をもっと読まねばならないと思い立って、積んでいた紫衣『旋律になる前 の』を読んだ。
断片的な言葉から立ち昇る此岸と彼岸の狭間の幻影。「かの女」の影が、陽炎のようにゆらめき立ち、彼女が自分自身であったと気づいた時には詩は幕を閉じている。
イメージの氾濫と、幾度となく巻き戻される時間が前衛映画のように読者の心を惹きつけてやまない。
朝吹亮二の解説もさることながら、幻想的で心象風景に映り込んでくる詩のイメージは、唯一無二の世界観を作り上げている。延々とループする子守り歌を聴いているような眩暈を催しながら読み終えた。
そうそう味わえない読書体験となった。
紫衣さんの詩には、現代詩手帖を読んで触れたことがあり、まとまった形で詩を読みたいと兼ねてから思っていたので、朝吹亮二の解説にも似たような文言が書かれていてうれしかった。
どこか娘の朝吹真理子を彷彿とさせる詩の数々で、ふたたび『きことわ』『流跡』、それから彼女の随筆群を読み返したくなった。
古語を現代語に混ぜて使うという手法は、私はあまり好きにはなれないのだけれど、そこにも何かしらのこだわりや思想があるのだろう。
朝吹真理子は一度死んでしまった古語を用いることで、現代に蘇生させたいと語っていた。どこで耳にしたのだったか、講演会に足を運んだ折だった気もする。
『TIMELESS』は朝吹真理子の創作技法の限界を感じてしまったので、もうよほどのことがなければ読み返すことはないだろう。
そうしていくらか希死念慮が緩和したと思ったのだけれど、死の影は付き纏って離れない。
誤送金したことや、心療内科への放火、近頃届いた訃報など、さまざまな外的要素がのしかかってきて、どうにも耐え難い。
DMMブックスからいくらかポイントが失効するというメールが届いたので、本をあれこれ見ていたのだけれど、電子書籍であえて欲しいという本は少なく、私は漫画を読むのが下手なので、すぐに途中で止まってしまう。
気になった『知的生産ワークアウト』はブックオフにも置いているのではないか、と思ったのが運の尽きで、そこから欲しかった岩倉文也の詩集や、時里二郎『名井島」、高柳誠『フランチェスカのスカート』が揃いも揃って並んでいるのに行き当たってしまい、誤送金したばかりだというのに注文した。
かねてから欲しかった詩集ばかりなので悔いているわけではないのだけれど、それにしてもここのところ散財が目立つ。
このまま体調不良を理由に黙って座っていたら自己嫌悪に駆られて、ますます死が頭から離れなくなりそうだったので、家事を片づけた。
それから主人に誕生日プレゼントにと買ってもらっていたMac Book Airを開封した。
色はリビングに馴染むようにと、ゴールドを選んだ。
この記事はMac Book Airで書いているのだけれど、まだ操作に慣れにない。
狙い通り、リビングやダイニングテーブルと馴染む色合いなので、マシン特有の無機質な印象はいくらか和らいでいて、ゴールドを選んでよかったなと思う。
主人の厚意には本当に感謝しているし、ブログを書くことを応援してくれているので、今後とも執筆に励みたい。