ANIRON

ひとりごと日記

2022.08.24 少女終末旅行完走後の感想

この度『少女終末旅行』を完走した。

チトとユーリは最後の最後で人間が生きる意味を見出すことができた。たとえ世界が終わったとしても、人間の尊厳がそこには描かれていたと感じたし、前巻までで感じていた虚ろな退廃主義と感じていたものは、大きく覆されたと感じた。
そこまで読み取ることができなかったのはひとえに私の技量不足なのだけれど、それでも二人が辿ってきた足跡がこの物語のすべてであって、それ以上のものは何もないのだろうと思う。
人間を突き放して描いているように思われるけれども、この作品はヒューマニズムに満ちているのではないか。
満ち足りた読後感を得ることができて、懸念していたような展開にはならなかったことにひとまず安堵している。

5巻を読んだ時には不眠の真っ只中で、これでチトとユーリが悲惨な最期を迎えたら、私のメンタルはもう保たないなと思って、その晩は読めずにいた。

それから一日おいてようやくページをめくった時、目次に終末の二字が見えて、「ああ本当にふたりは死んでしまうのだな」と思ったのだけれど、その最期を見届けるまで旅は終わらない。

終末SFはこれまでにも、ネヴィル・シュート『渚にて』や、コーマック・マッカーシーザ・ロード』などを読んできた。

渚にて』では登場人物たちは陰惨な最期を迎えることになるけれど、それでもそこには自らの意思で死を選ぶという人間の尊厳が描かれていたし、『ザ・ロード』は希望の物語として幕を閉じた。

果たしてこの『少女終末旅行』ではどのような死が待っているのだろうと半ば恐れをなしながら読み進めているうちに、図書という一話に目が留まった。

それまでほとんど滅んでしまったと思われた本が巨大な図書館に収められていたという図はあまりにも意義が大きく、これまで美術館のくだりもあったけれど、この最終巻に図書館という場を描いたことは、著者にとっても、そして私にとっても、図書館が人間にとっての最後の良心であり、また砦であることを示しているように思われて、深い感動に包まれた。

それは私自身が自著である図書館エッセイ集『図書館という希望』に書いてきた考えと重なると感じたのだった。

ブログ「広寒宮」で綴ってきた図書館にまつわるエッセイに書き下ろしを加えた、図書館エッセイ集です。
「もうひとつの家」としての図書館との付き合い方や、うつ病当事者としての図書館との関わり、一利用者から見たコロナ禍の図書館の記録、幼少期に通った図書館との思い出など、今だから読みたい内容をぎゅっとまとめました。
本書が図書館を愛するすべての人の友となりうることを心から願っています。

-収録作品-
図書館という希望
ふたつの棚
図書館という友人
ふたたび図書館へ一
図書館の使い方を模索する
コロナ禍の図書館について
蔵書の整理
ふたたび図書館へ二
先達の目とBANANA FISHにみる図書館の精神
図書館という知の海に漕ぎ出す
図書館で知を拓く
学校の図書室の思い出
非常事態宣言下の図書館
本書に登場した書物

そしてさらにその本や、チトが大切に書いてきた日記を燃やして最後のコーヒーを飲むシーンは、明らかにレイ・ブラッドベリ華氏451度』を踏襲したものだろうし、ひいてはチトという存在、あるいはそこに描かれる百合という関係は、伊藤計劃『ハーモニー』なくしては語れない。

いわばこの『少女終末旅行』は歴々の終末SFに向けた賛歌なのだろう。

そして最期を迎えようとするふたりが手と手をつなぎ合って、その恐怖に耐えようとする姿には、人間に残された最後のものは愛だというメッセージを感じた。

それは上に百合と書いたけれど、性愛までは至らないものなのかもしれないし、ヒューマニズム的な人間愛の発露であったのかもしれない。ただそこには確かな愛があって、それが人間の到達した最後の境地であったというのは、この作品において何よりも価値の重いものだったと感じる。

例えば『BANANA FISH』に描かれた、性愛を超えた人間愛を、この作品の中にも確かなものとして感じることができた。

同性であるからこそ本質的な愛情が描けるものなのだろうかとも考えてしまうけれども、それは随分と長くなるだろうし、私自身のバイセクシャルというセクシャリティにも関することなので、この場では深く掘り下げずにおく。

そうしてひとしきり主人に語った後、「雨伽は哲学的な作品を読んで考えるのが好きだよね」と云われた。私は別段理屈っぽい人間ではないし、情緒でしかものを考えらえない瑣末な人間だと自分自身のことを思っているけれど、それでも言葉を尽くしてものを考えるのは好きだ。

その考える余白がこの『少女終末旅行』には多分に含まれていたということなのだろうと思う。

ぜひ今後ともこうした作品に出会っていきたいと感じさせる、素晴らしい漫画だった、という言葉でこの記事を締めくくりたい。

 

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もう幾百人の血を吸った懐刀も錆び果てて、我が身も朽ちると思えば侘しさよりも虚ろさが募るばかりで、枯野の向こうに迫る夕日に我が身を焦がしてしまいたかった。──「凍蝶の弔い」

-収録作品-
初秋、修羅は往く。
修羅桜
妖魚譚
凍蝶の弔い

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